なぜ? 慣れたことほど新しく教わると一時的に下手になるの?
ずっと得意だったことや、毎日続けていることを、先生やコーチに新しく教わったとき、「あれ?全然うまくいかない」「前より下手になったかも…」と感じた経験はありませんか?
これは、あなたが今のレベルよりグッと上達しようとしているときに、必ず起こる「ふしぎな現象」です。この一時的に動きが悪くなる時期を、専門家は「成長のための逆戻り」と呼びます。これは、技術がダメになったのではなく、もっとすごい新しい技術を身につけるための準備をしている最高のサインなのです。
あなたが「言われたことが難しくてピンとこない」「慣れるまで時間がかかる」と感じるのは、あなたの頭、体、心の三つが同時に一生懸命がんばっている証拠です。
特に、長い間、体が勝手に効率よく動いていた『今までのやり方』を一旦やめて、もっとすごい『新しいやり方』に切り替えようとするとき、私たちは一時的に、「意識して、ゆっくり動かすこと」に戻らざるを得ません。この切り替えの途中で、動きが遅くなったり、失敗が増えたりすることが、「下手になった」と感じる正体です。
軽自動車とトラック!「慣れのパターン」と新しい技術とのやり取り
運転技術を例に「毎日小さい車(軽自動車)を運転していたが、急に大きい車(トラックや牽引車)を運転できないのと同じ」という考え方となります。
- 軽自動車をスイスイ運転できるのは、体がもう運転を勝手に覚えていて(これを慣れのパターンと呼びます)、細かい操作についてあまり考えずに運転できる状態だからです。
- ところが、トラックの運転は、ただ軽自動車の運転に何かを追加するだけではありません。曲がり方やバックの仕方が、今までの『慣れのパターン』とは根本から違います。
たとえば、ゴルフで考えてみましょう。いつも手首をパッと返して打つ打ち方(軽自動車)でうまくいっていた人が、コーチに「体の中心(体幹)をしっかり回す打ち方(トラック)」に切り替えようとするときがこれにあたります(私の場合は逆に手で打つよう最初教わりましたが…….)。
新しい技術を覚えることは、「似ているようで、実は全く別のこと」を覚えることなのです。このとき、今まで無意識だった体の使い方を、全部イチから意識して直さなければいけません。この「頭のストレス(認知的な負担)」が急激に増えることが、一時的に動きがぎこちなくなり、失敗が増える一番の原因となります。一時的に元の動きに戻れなくなるのは、上達のためには仕方のないことなのです。
頭と体がケンカする!「考えすぎ」で体が固まるワケ
体が勝手に動く仕組みが止まるとき
得意な動きは、「何も考えなくても、スムーズな動きをコントロールする、体が覚えているやり方」によって効率よく動きます。熟練者は、「全体的な目標」だけを意識すれば、細かい動きは体が自動的にやってくれます。
しかし、「下手になる」とき、コーチの指導によって、これまで意識していなかった動作の「細かい部分」に意識が集中してしまい、体が勝手に動く仕組み(自動運転)が、途中でストップしてしまうのです。
「考えすぎ」で動きが止まる現象
新しい教えや知識は、「今まで考えずにやっていた細かい動きを直せ」と頭に指令を与えてきます。これにより、動きのコントロールが、また「頭で細かく考えるプロセス」に戻ってきてしまいます。
体で覚えること(自転車、楽器など)の本当の効率は、「動きを無意識の身体操作にまかせて、頭の力(脳のリソース)をもっと大切な作戦に使える」ことにあります。指導による意識的な介入は、この自動運転を解除し、脳の力が再び単純な動作の実行に割り当てられてしまう状態を引き起こします。
- これは「意識的な見張り(モニタリング)の効果」として知られています。
- 試合中にゴルファーが、コーチに言われた「左足の使い方」を意識しすぎた結果、体がロックしてしまい、スイング全体が崩れる現象は、まさにこの「考えすぎで体が固まる現象」の典型的な例です。
「知識」を「体で覚えたやり方」に書き換えるには時間が必要
新しい技術(知識)を頭で理解しても、それを実行する身体的な「体で覚えているやり方(手続き的知識)」を脳に書き換えるには、時間と集中的な繰り返し練習が必要となります。
真に新しい、今のレベルより一段上の技術は、必ず一時的に動きの質を悪くする(パフォーマンスの逆行)という事だと受け入れましょう。
心が折れないために!「やる気」と「納得」の育て方
動きが不安定な「下手な時期」には、「心」の持ち方もとても大切です。「なぜこの動きが必要なのか理解できない」ことや、「納得できないと半信半疑で練習してしまう」という心理状態は、新しい動きを効率的に体に入れるのを邪魔してしまいます。
「やればできる!」という自信(自己効力感)を大切に
自己効力感とは、「自分は自分の行動をコントロールできる」という自信のことで、特に失敗や困難に直面したときの「へこたれない力(学習を粘り強く続ける力)」に直結します。
- パフォーマンスが一時的に悪くなっている「崩壊期」は、成功した経験が得にくく、自信を失いやすい時期です。
- ここで指導内容に対する納得感がなければ、「このやり方は間違っているのでは?」と疑心暗鬼になりやすくなります。
- 自信が高い人は、「最終的にはできる」と信じているため、失敗を「次にどう動くかを決めるための大切なデータ」と捉えることができます。
前向きな言葉と「お手本を見て真似する」力を活用
一時的に下手になった時期を乗り越えるためには、「やればできる!」という自信を、自分で意図的に維持・向上させる心理的な作戦が欠かせません。
- 前向きな言葉を使う:ネガティブな考え(「私にはできない」)は自信を下げます。自分の考え方を意識的に観察し、「これは挑戦的だが、一歩ずつ取り組めば必ずできるようになる」という前向きな言葉に言い換えましょう。
- お手本を見て真似する:自分と似た背景を持つ人が、新しい技術を身につけて成功している姿を観察することで、「自分にもできるかもしれない」という自信を強くすることができます。
【実践】下手な時期を最短で乗り越える4つのルール
この「成長のための逆戻り」の時期を早く卒業するために、次の4つのルールを意識して練習しましょう。
技術を「赤ちゃんの最初の一歩」まで小さくする
新しい技術によって体の動きが混乱している状態では、「基礎の再確認」がとても大切です。
- シンプルにして分解する:新しい技術を、失敗する確率が極めて低い「シンプルで簡単な動き」から始める必要があります。
- 例:ゴルファーであれば、いきなりドライバーのフルスイングではなく、まずはアプローチや小さなスイングなど、「失敗率が低い小さなステップ」から始めましょう。
- 小さな成功体験を積み重ねる:新しい動作が完成するまで、難しさを急激に上げず、「やればできる!」という自信を回復させることを優先します。
「ダラダラ」ではなく「こつこつ」練習する
新しい技術を体で覚えるには、適切な繰り返し練習が必要です。体の動きのパターンを書き換えるときは、短い練習を頻繁に続ける方が効果があります。
- 短い練習を頻繁に:「1週間に一度2時間練習するよりも、毎日10分練習するほうが、新しい動きを脳に定着させる上で効果があります」。
- 動いているときは「考えない」:動作を実行しているときは、「あれこれ考えず、淡々と指示通りに課題をこなす」ことが大切です。頭で分析したり、直したりするのは、練習後の振り返り時間などに集中しましょう。
成長を「見えるように」してやる気を保つ
新しい技術に取り組んでいる間は、一時的に動きが悪くなるため、成長が止まっているように感じやすいものです。
- 振り返りの習慣:「今日の練習は集中できたか?」「どこが難しかったか?」など、自分の学習状況を定期的に振り返る習慣をつけましょう。
- 成長を記録する:目に見えない「体で覚えたやり方の成長」を、グラフやチェックリストで「見える化」することが、やる気を保つためにとても重要です。
- 例:新しいドリルでの連続成功回数や、ラウンド後の成功ショットの割合などを記録しましょう。自分の成長が分かりやすくなり、自信の回復につながります。
悩みすぎず、人の助けを借りる
高いストレスは自信を低下させます。ストレスが高い状態では、自分の能力を低く見すぎたり、課題を難しく捉えがちです。
- ストレス管理:適切な休憩、運動、趣味などにより、ストレスに対する強さを高めましょう。
- 客観的な「データ」として受け取る:指導者からのアドバイスやフィードバックを、感情的な批判ではなく、新しい動きを作るための客観的な「データ」として受け取る姿勢を保ちましょう。
大丈夫!下手になった時こそ、本当のレベルアップのチャンス
パフォーマンスの一時的な「崩壊」は、今の動きのパターンでは、もっと高度な要求に対応できなくなったと脳が気づき、新しい、より良い仕組みを作ろうとしている、能動的なプロセスであることが分かっています。この逆戻りは、あなたが真にレベルアップしようとしていることの証明に他なりません。
この記事を読んだ皆さんには、動きの逆戻りを恐れず、これを「新しい自信を作るための、意図的な試行錯誤の段階」として受け入れてほしいと思います。
もしあなたが「教わったら下手になった」と感じたなら、それはレベルアップの扉を開いた最高のサインです。自分に「おめでとう!」と言ってあげましょう。
あなたにしてほしい具体的な行動は次の3つです。
- 「なぜ?」を理解する:コーチに理由を聞き出し、心から納得すること。
- 「成功」を意図的に作る:失敗しない簡単な動きで、自信を維持すること。
- 練習は「こつこつ」続ける:1回の時間より回数(頻度)を重視し、体に定着させること。

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